(祭具・霊廟)相続税における非課税財産、信じる者によって課税非課税は変わる?
私は現役時代に色々な所に相続税の調査に行きましたが、中には奇妙な財産にぶつかるような事が多々ありました。
今回は私が見てきた中でも特に変わった『多宝塔』という財産とその財産にまつわる課税・非課税問題について話していきたいと思います。
被相続人の預金から出されていた4,000万円の使い道
その相続税事案は、銀行に照会した被相続人の預金の取引内容で、
被相続人が亡くなられる2年前に被相続人の預金から2,000万円と2,000万円が2口出金されていて、
その出金された預金の使い道は何だろうと土地の取得や建物の建築、相続人への資金の流れを検討しました。
少し余談ですが、
相続税調査では大きな預金の出金などがありますと必ず、
・その出金が何に使われたのだろうとか
・子供や孫に預金が移っているのではないだろうか
などとその資金を追います。
土地の取得や建物の建築などは、被相続人や家族所有の登記簿謄本を法務局で取れば、土地や建物の取得年月日が載っていますので、
出金があった年月日と土地や建物の取得年月日が合えば、
「ははぁ、このお金で土地を買われたんだな。」
と推測できますから、そこでその出金に関する調査は打ち切ります。
例えば、そのお金が子供や孫に移っているなどしたら、
その子供名義の預金は「名義預金」ではないかと、更に「名義預金」に関する調査を行う事になります。
亡くなった方の家で見たのは、4,000万円の『多宝塔』
しかし今回の件では、
・預金は現金で出金されていましたが
・土地の購入もないし
・建物を建築されてもいない
・子供や孫にお金が流れてもいないなどと
4,000万円の預金が何に使われたのか皆目掴めない状態でした。
このように調査の前にあらかじめ税務署内部で出来る調査はしておいて、いよいよ被相続人宅にお伺いして相続人の配偶者(妻)や子供さんとお会いするのですが、
相続人とお会いする時点では概ね8割方調査は終わっているのです。
お会いする目的は、「私が調査を担当します。」という挨拶と、一部の疑問点を相続人に聞かせて貰うことくらいのものです。
しかしながら私が担当したこの相続税の調査事案は、合計4,000万円の出金は何に使われたのか判明していませんので、
相続人に会う目的は、この大金が何に使われたのかを知ることでした。
被相続人宅で相続人にお会いして、被相続人の生前の職業とか経歴を一通り聞かせていただいて(これを聞くのは相続税調査の鉄則)、
いよいよ本題です。
『被相続人には特別関係人(俗にいう「二号さん」)はいませんでしたか?』
を問えば、(稀にこのような人にお金が流れている事があります。)
『そのような人はいません』との答えでした。
『2年前に、二回で2,000万円づつ4,000万円の出金があるのですが、これは何に使われたのでしょう?』
と問いましたら、被相続人の奥さんが事も無げに、
『それならアレでしょう。私は猛反対したのですけどね。主人が買ってしまいました。』
と言われるのです。
『アレとは何ですか?』
『こちらに来て見ていただいたら分かります。』
奥さんに別室に連れて行かれて「アレ」を見ました。
別室には、当時世間で騒がれていた「多宝塔」があったのです。
それは、アメジストで作られたと思われるいわゆる塔です。ガラスのケースに収められていました。
『これが4,000万円もするのですか?』
『そのようです。』
ここからが大変でした。
信じる者にこそ価値がある非課税財産
相続税法第12条に《相続税の非課税財産》というものがあります。
この条文に、相続財産に計上しなくてもよい財産が決められていますが、第1項第2号に
「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」と規定されているのです。
では今回のケースでの「多宝塔」は、この非課税財産に当てはまるのでしょうか?
当時のこの問題をご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、
週刊誌などに〝宗教団体が会員に高額の多宝塔を買わせて資金集めをしている〟などと掲載されて社会問題化した事件がありました。
当時問題化した時に宗教団体はこの非難を収束させるために、
「多宝塔は会員から要請があれば買い戻すします!」
という約束をしていた記事も週刊誌などに掲載されていました。
さてさて、この「多宝塔」の取り扱いはどのようにしたらよいのか・・・。
今回この多宝塔を相続する奥さんや長男さんは信者でもなんでもなく、逆に多額の資金をつぎ込む被相続人を責めていたくらいです。
なのでお二人共、多宝塔に何の財産価値も持っておられませんでした。
という訳で、私は
『皆さんにとっては、この多宝塔を持っておられても何の価値もないものですから、宗教団体に買い戻しをして貰ってもいいのではないですか。』
と提案しましたが、相続人である奥さんと長男さんは
『被相続人の意思が詰まってる物だから、買い戻しをしてもらうのは怖い気がします。なのでこのままこの家に置いておこうと思います。』
との事でした。
ではここで問題です!
今回奥さんと長男さんが相続され、手元に置いておくと判断されたこの『多宝塔』
これは相続税法第12条《相続税の非課税財産》の中にある、
「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」に当てはまるのでしょうか?
今回の話の顛末
さて、では今回のお話の顛末を語らせて頂きましょう。
今回の相続話の肝となる『多宝塔』ですが、
実際にこのような物は信者が持っていてこそ価値があるものです。
『この多宝塔は祭具だ!』
『私も長男もこの多宝塔に向かって日常礼拝を行っているんだ!』
とお二人が仰られていたら、私はこの多宝塔を「課税財産」にするか「非課税財産」にするかの判断に苦慮していたことでしょう。
ですが今回、この多宝塔はお二人にとって何の価値もない〝只のモノ〟
なので結局私は、
・買い戻しをしてもらったら4,000万円のお金が戻って来るのに
・それをされないという事は、お二人の手元には現在価値として4,000万円相当の多宝塔が残る。
・また、この多宝塔を〝只のモノ〟としか見ていないお二人にとっては、この多宝塔は相続税の非課税財産に当てはまる物ではないとして、
4,000万円を相続財産として追加計上して頂き、修正申告書の提出と追加の相続税を納めていただきました。(私は決して鬼ではございません)
長い間相続税の調査をしていますと、いろんな物を見るものです。
他にもこの仕事をしていなかったら見れなかったような物をたくさん見てきましたが、その事は又の機会に披露させていただきます。
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