居住用資産を売却した際に選べる2つの特例、どちらを使うのが正解?
税法には色々な「特例」があります。
一般的に「特例」と聞くと、利用すればするだけ税金面でお得なんじゃ?と思いがちですよね!
しかしながら、特例の内容を熟知しないで安易にこれでいいだろうと選択すると、将来支払わないでよかった税金を納めることになります。
特に、不動産の譲渡などは金額が大きいですから、特例を研究して内容を見極めて選択する必要があります。
ですので今回の記事では、居住用資産を売却した際に注意すべき特例を紹介して行きたいと思います。
目次
居住用資産を売却した際に選べる2つの特例、どちらを使うのが正解?
土地・建物の所有者が住んでいたいわゆる居住用資産を売却した時には、
【租税特別措置法第35条】により譲渡所得金額から3,000万円の控除の特例(居住用財産の譲渡所得の特別控除)
若しくは、
譲渡の年の1月1日において5年以上所有していた居住用資産を売却した時には、
【租税特別措置法第36条の2】により買換えの特例(特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例)
いずれかの適用を受けることができます。
しかし、この3,000万円の控除の特例、又は買換えの特例のどちらの特例を選択するかには、ある重大な注意点があるのです。
2つの特例の内、どちらを使った方がお得?
まず前提条件として不動産の譲渡所得税の計算は、
〝売値-買値-譲渡に要した費用(仲介手数料など)〟
で計算します。
ちなみに先祖代々の土地等で〝買値〟が分からないような場合には、〝売値の5%〟を買値とすることができます。
以上のことを頭に入れ下記を見て行きましょう!
①3,000万円の控除の特例を使った場合
・仲介料は100万円を支払い ・土地の買値は分からないとした場合
この場合の譲渡所得金額は、
3,000万円(売値)-150万円(買値:売値の5%)-100万円(譲渡に要した費用)
=2,750万円になり、
租税特別措置法第35条の特例を選択すると、譲渡所得金額から3,000万円の控除を受けることができますから課税される価格は0円。
つまり譲渡所得税は掛からないということになります。
②買換えの特例を使った場合
一方、次に居住する資産を購入した場合には、
租税特別措置法第36条の2により買換えの特例を適用することもできます。
次の居住用資産を売値と同じ3,000万円で購入したとして税額の計算をしてみましょう。
売値と購入した居住用資産の価額が同額の場合には、売却はなかったとして取り扱われますので譲渡所得税は掛からないということになります。
なんだ、紙面を使って難しい説明をしても結果一緒じゃないかと思われたかもしれません。
そうです今回の(1回目の)譲渡所得金額は掛かりませんから同じなのです。
しかし、
3,000万円の控除の特例を使うか、買換えの特例を使うかで
将来の税額計算が全く違ってくるのです。
前回〝買換えの特例〟を使っていた場合
租税特別措置法第36条の4の規定に《買換えに係る居住用財産の譲渡の場合の取得価額の計算等》
という規定があります。
どの法律も難しい言い回しをしていて、この場合も表題を読んでも何のこと?と思われるでしょうが、
・売却して得たお金で居住用財産を買った場合
・次の居住用財産を将来売却した時の買値はこうなりますよ!
という規定なのです。
租税特別措置法第36条の4の第2項に、
譲渡による収入金額が買換資産の取得価額に等しい場合として、
「当該譲渡をした譲渡資産の取得等に相当する金額」と規定しています。
具体的にどういうことかを説明しますと、例の場合、居住用資産の売値が3,000万円で次に買った居住用資産は3,000万円です。
3,000万円の控除の特例を選択しても、買換えの特例を選択しても、所得税の申告さえすれば税金は掛かりませんでしたが、
買換えの特例を適用して購入した居住用資産を将来売却した場合のその居住用資産の取得価額は、譲渡した譲渡資産の取得等に相当する金額と規定されていますから、売却した物件の買値(5%の150万円)+仲介手数料(100万円)の250万円が取得価額とされるのです。
ですから、買換えで購入した居住用資産を将来売却した場合、購入価額と同じ金額の3,000万円で売ったとしても取得価額は250万円ですから2,750万円の利益が出ることになるのです。
住んでいるのだからまた居住用資産を売却した場合の3,000万円控除の特例を使ったらいいじゃないかと思われる方もおられると思いますが、この規定は3年毎でないと適用が受けられないのです。
中には、最後の物件として引っ越したものの、買うときは分からなかったが、隣近所にクレーマーが住んでいたり、騒音を出す家があったり、非常識な人が地域にいたりして、買った家に嫌気がさして3年以内に売却をされる場合などもあります。
また、買った本人は住み続けたのですが、そこで亡くなってしまい子供が相続しましたがその子供がそこに住んでいるとは限りません。
このような場合には3,000万円の控除の特例は受けられないのです。
そうしたらどうなるかといいますと、2,750万円に対して譲渡所得金額が掛かるのです。
5年以内に売却した場合には39%(短期譲渡所得)、5年超所有していても20%(長期譲渡所得)の所得税が掛かります。長期所有していても450万円の税金を支払うことになります。
前回〝3,000万円の控除の特例〟を使っていた場合
もう一方、3,000万円の控除の特例(租税特別措置法第35条)を適用していたらどうなるかを説明します。
この特例を適用しても租税特別措置法第第36条の4第2項のような規定(買値等を引き継ぐという規定)はありませんから、取得価額は3,000万円です。
ですから、将来3,000万円で売却したとしても買値が3,000万円(建物部分は減価償却をしますから買値は少し目減ります)ですから、わずかな譲渡所得しか出ないのです。
購入した居住用資産の価額は3,000万円なのに、選択した特例の違いというだけで将来売却した時の譲渡所得税がこんなに違うとはあまり知られていないことです。
今回のおさらい
おさらいになりますが居住用資産を売却した場合、
・租税特別措置法第36条の4の買換えの特例は絶対に適用してはいけない!!
ということが言えるのです。
3,000万円で説明しましたが、3,000万円以上で売却して売却金額と同じ金額を使って次の財産を購入された場合であっても前の説明と同じようなことが言えますので、資産課税に精通した専門家に相談されることをお勧めします。
はっきりと言えることは、3,000万円以内の売買であれば絶対に買換えの特例は適用してはいけないということです。
これと同じようなことが言えるのは、租税特別措置法第33条の4の規定と租税特別措置法第33条の規定も同じことが言えます。
租税特別措置法第33条の規定は、不動産が収用にかかった場合の特例です。
収用の場合の特別控除は5,000万円の控除が受けられます。
収用の場合も代替え(収用の場合は、買換えではなく代替えといいます)の特例があります。
代替え資産の取得価額の計算は、居住用資産の取得価額の計算と同じになります。
具体例で説明します。
所有している不動産が道路になることになり、都道府県の用地課の職員が買い取りの説明に来て所有不動産を5,000万円で売ることにしました。
道路になる不動産は先祖代々の土地だったため、土地を減らすことを懸念した地主は代わりの土地を都道府県の職員に紹介してもらい、価値的にも同じような物件だったため売却金額と同じ5,000万円で購入することにしました。
地主は、租税特別措置法第33条の4の規定と租税特別措置法第33条の規定どちらでも選択で適用することができます。
これも、居住用資産を将来売却した場合と同じことになります。
代替えの特例を選択すれば、将来に代替えで買った不動産を売却した場合には250万円(売却した不動産の買値が分からない場合は、売却した金額5,000万円の5%)しか引けないのです。
ですから、将来買った時の値段と同額の5,000万円で売却した場合は4,750万円の所得が出るのです。
収用などは、居住用資産の譲渡と違って次も収用にかかるということは皆無ですから次も5,000万控除というのはありませんから、将来に代替えで取得した物件を売った場合は大きな税金が掛かるのです。
このように、特例を使う場合でも特例の内容を良く検討して選択しなければ、後の祭りになってしまう可能性がありますから注意が必要です。
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