【相続税の2割加算】無条件で相続税が20%も高くなってしまう人とは!?
● 亡くなった人の財産が、『相続税の基礎控除』を超えている場合、
● 相続人は『相続した財産の金額に応じた相続税』を支払うことになります。
ですがその際に支払う相続税の金額は、相続人全員が平等というわけではありません。
実は、亡くなった方の財産を〝誰が〟相続するかによって、『無条件で相続税が高くなる人』がいるのです。
では、以下の図のような家族がいた場合、『無条件で相続税が高くなる人』は誰でしょう?
正解は、『第3順位』の人達です。
つまり『亡くなった方の兄妹姉妹』が財産を相続した場合、兄弟姉妹が支払う相続税は〝通常支払う相続税〟よりも20%高くなるのです。
例えば、
● 通常なら100万円の相続税の支払いで済むところを、
●『2割加算の対象者』となる人は120万円の相続税を支払うことにります。
『2割加算の対象』となるのは、『亡くなった方の兄妹姉妹』の他にも複数人おり、
これらの対象者のことをきちんと把握していないと、
●『2割加算の対象』となる人物に遺言や養子縁組で財産を渡す際や、
●『2割加算の対象』となる人物を生命保険金の受取人にしている場合に、
「想定以上の相続税がかかってくる」という事態も起こりかねません。
ですので今回の記事では、以下のテーマでお話をしていきたいと思います。
①相続が発生した際の法定相続人
②相続税の2割加算の対象者
③2割加算対象者が相続をした方が得をするケース
目次
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①相続が発生した際の法定相続人
『相続税の2割加算の対象者』についてお話しする前に、まずは、
〝いざ相続が発生した際には誰が亡くなった方の相続人となるのか?〟
という部分について、簡単におさらいをしていきます。
大前提として、亡くなった方の財産の分け方には大きく分けて二通りあります。
【相続財産の分け方】
● 亡くなった方が生前に作成した遺言書通りに財産を分ける方法
● 相続人全員で遺産の分割協議を行い、各自の遺産額を決める方法
基本的には〝遺言書の有無〟によって財産の分け方が異なります。
遺言書がある場合:
残された相続人は、その遺言書通りに財産を分けることになります。
※相続人全員の同意があれば、遺言書とは異なる分け方をすることも可能です。
遺言書がない場合:
『法定相続人』同士の話し合いのもとで、亡くなった方の財産を分けることになります。
ですが、
「亡くなった方の家族であれば、誰でも法定相続人になれるのか?」
と言えば、そういうわけではありません。
相続が発生した際の法定相続人
家族の中でも、
● 特に何の条件もなく法定相続人になれる人
● 亡くなった人に子供がいるか・いないかによって、法定相続人になれるかどうかが左右される人
● 親が存命か亡くなっているかによって、法定相続人になれるかどうか左右される人
● もともと相続権が無い人
など様々な立場の人がいます。
分かりやすいように、下の図のような家族の内、一成さんが亡くなった場合の『法定相続人になれる順番・順位』を解説していきましょう。
父母:一徹さん、菊さん
子供:一成さん(被相続人)、二郎さん
子供の配偶者:燈さん(一成の妻)、由未子さん(二郎さんの妻)
孫:篤さん・みのりさん(一成と燈の子供)、翔さん(二郎と由未子の子供)
【常に相続人:配偶者】
まず亡くなった方の配偶者は、〝相続順位に関係なく常に相続人〟なので、一成さんの妻の燈さんは『法定相続人』になります。
ですが他の家族は、『法定相続人になれる順番』がありますので、順番に見ていきましょう。
【第1順位:子供(孫・ひ孫)】
第1順位は被相続人(一成さん)の子供である、篤さんと みのりさんです。
被相続人よりも先に子供が死亡していて孫がいる場合:
上の図のように、一成さんが亡くなるよりも前に篤さんが亡くなっている場合、篤さんの子供(一成さんの孫)が第1順位の法定相続人になります。
ちなみに孫も亡くなっていれば、ひ孫が法定相続人になれます。
被相続人と孫が養子縁組をしていた場合:
上図みのりさんの子(孫)のように、被相続人の生前に養子縁組をしていれば、みのりさんの生死は関係なく、養子となった孫やひ孫も第1順位の相続人となります。
上図の篤さんの子(孫)のように、一成さんとの養子縁組をしていない場合は、篤さんの存命中は、その孫やひ孫に一成さんの財産を相続する権利はありません。
【第2順位:被相続人(故人)の父母】【第3順位:被相続人(故人)の兄弟姉妹】
被相続人の父母および兄弟姉妹が相続人になれるかどうかは、『被相続人に子供がいるか・いないか』によって変わってきます。
被相続人に子供(孫)がいる場合:
父母(第2順位)や兄妹姉妹(第3順位)には相続権がありません。
被相続人に子供(孫)がおらず、父母が存命の場合:
● 第1順位:一成さんの父母(一徹さん・菊さん)・・・法定相続人になる。
滅多にないことですが、親がすでに亡くなっていて祖父母が存命であれば、祖父母が第2順位の法定相続人になります。
● 第2順位:一成さんの兄弟姉妹(二郎さん)・・・第2順位である父母が存命の場合は、相続権なし。
被相続人に子供(孫)がおらず、父母が死亡している場合:
第3順位である一成さんの兄弟姉妹(二郎さん)が法定相続人になります。
被相続人よりも先に兄弟姉妹が死亡していて甥姪がいる場合:
二郎さんの子供(一成さんから見れば甥・姪)の翔さんが法定相続人となる。
被相続人よりも先に兄弟姉妹も甥姪も死亡している場合:
「翔さん(甥姪)が亡くなれば、その子供に相続権が移るのか?」と思われるかもしれませんが、違います。
甥・姪の子供には相続権はありません。
【もともと相続権がない人】
● 子供の配偶者・兄妹姉妹の配偶者・・・家族といえども相続権がありません。
● 亡くなった方と内縁関係にある人・・・相続権はありません。
ここまでの内容をまとめますと、
被相続人の配偶者・子供:絶対に法定相続人になれる
孫・両親や祖父母・兄妹・姉妹や甥・姪:上の順位の人が存命の場合、下の順位の人は法定相続人になることはできない
という事になります。
②相続税の2割加算の対象者
と、ここまで簡単に「相続が発生した際に、誰が法定相続人になるのか」という部分についておさらいをしてきました。
ここからは、再び先ほどの家族をモデルケースとして、
亡くなった方から財産を相続した際に無条件で相続税が高くなってしまう『相続税の2割加算の対象となる人』について見ていきます。
まず結論から申し上げますと、『相続税の2割加算の対象者となる人』というのは、原則として下図の赤枠で囲った人となります。
つまり、『代襲相続ではない孫・甥姪』『故人の兄弟姉妹』『もともと相続権のない人(子供の配偶者など)』これらの人物が、
● 亡くなった方から相続で財産を貰った場合
● 亡くなった方から遺言で財産を貰った場合
● 養子縁組をして相続人となり、財産をもらった場合
これらの場合には、無条件で相続税が『2割加算』される。ということです。
順を追って見ていきましょう。
【兄弟姉妹】
まず、冒頭でも話したように、『亡くなった方の兄妹姉妹』の方達は『2割加算』の対象です。
多くの方が
「亡くなった方の兄妹姉妹は法定相続人の第3順位に入っているんだから、『2割加算』の対象にならないんじゃない?」
と勘違いされているのですが・・・
遺贈を受ける場合:
「兄弟の○○に預金を渡す」
というような遺言によって財産をもらった場合(遺贈)であっても相続税は『2割加算』されます。
財産を相続する場合:
亡くなった方に配偶者や子供・両親がおらず、兄妹姉妹が相続人となって財産を相続する場合であっても相続税は『2割加算』されます。
【代襲相続ではない孫】【甥姪】【もともと相続権のない人(子供の配偶者など)】
また、亡くなった方の『子供の配偶者』『代襲相続ではない孫』『甥・姪』も『2割加算』の対象者です。
これらの人物が亡くなった方から遺贈(遺言によって財産を受け取る)を受けた場合にも、財産を受け取った人は相続税を『2割加算』で支払うことになります。
『子供の配偶者』『甥・姪』を養子にしている場合:
ただしこれらの人物のうち、『子供の配偶者』や『甥・姪』を養子にしていた場合には、実子と同じ扱いになりますので、
● 普通に財産を相続した場合でも、
● 遺言によって財産を受け取った場合でも、
相続税が『2割加算』になることはありません。
ここまでが、〝原則的〟に『相続税の2割加算の対象となる人・ならない人』の説明なのですが、相続税の『2割加算』の話をする上で、重要な人物がいます。
それは誰かと言うと、『亡くなった方の孫』です。
『代襲相続ではない孫』を養子にしている場合:
「孫は相続開始時においてどういった立場にいるのか?」
というと、〝亡くなった方からた子供(孫の親)が存命かどうか〟によって、『2割加算』の対象となるのか・ならないのかガラッと変わってきます。
先ほど、
「子供の配偶者や甥・姪は、養子にすれば『2割加算』の対象にならない」
とちらっとお話しましたね。
そこで「孫はどうなの?」と疑問に思われたと思います。
戸籍上、養子は養父や養母の『実の子供』という位置づけになりますから、
「孫を養子にすれば、孫は被相続人の子供になるんだから、『2割加算』の対象にはならないんじゃないの?」
こう思われる方も多いでしょう。
ここが非常にややこしい部分なのですが、
上図のモデルケースに当てはめると、
● 一成さんが孫を養子にし、
● その後、一成さんが亡くなった際に〝篤さんが健在〟の場合、
なんと孫は『2割加算』の対象となるんです。
何故このような取り決めになっているのかを簡単に説明していきましょう。
【代襲相続ではない孫が『2割加算』の対象となる理由】
国としては、順当にいけば、
● 一成さんの相続の際に篤さんから相続税を徴収し、
● 次に篤さんが亡くなった際には、相続人の芽依ちゃんからも相続税を徴収することができます。
(一成さんの財産から相続税を2回徴収できる)
ですが、一成さんの相続が発生した際に、篤さんを1代飛ばして芽依ちゃんに財産を相続されると、
国は1回分の相続税が徴収できなくなるのです。
そのために一成さんから見た直系の孫を養子にする際には、
1代分の相続税の徴収漏れをカバーするために、孫養子を『2割加算』の対象としているのです。
では一成さんが亡くなる前に、篤さんが既に亡くなっていたらどうなるのでしょうか。
孫が2割加算の対象にならないパターン
被相続人の相続が発生する前に、亡くなった方の子供がすでに亡くなっていた場合には、
その子供(被相続人から見て孫)が『代襲相続人』となり、本来 子供が受け取ることが出来た分の財産を相続することになります。
そしてその場合、孫は相続税の『2割加算』の対象とはなりません。
● 本来『2割加算』の対象外である第1順位の篤さんの代わりに、『代襲相続人』である芽依ちゃんが財産を相続した。
● だから2割加算は課されない。
ということになっています。
『代襲相続の孫』が養子になっている場合:
では、
● 一成さんが亡くなる前に篤さんが亡くなり、
● 篤さんの『代襲相続人』となった芽依ちゃんが、さらに一成さんの孫養子となった場合にはどうなるでしょうか?
ここまで見てこられた皆さんでしたらもうお分かりですよね?
● 一成さんが亡くなる前に篤さんが亡くなり、
● 芽依ちゃんが篤さんの『代襲相続人』となり、その上で芽依ちゃんが一成さんの孫養子となっていた場合には、
財産の一代飛ばしなどの話は関係なくなりますので、
『代襲相続人』かつ孫養子の芽依ちゃんは、2割加算の対象にならない。
ということになります。
このように孫が、亡くなった方の財産をもらう場合、『2割加算』の対象になるのか・ならないのかというのは、
孫の親に当たる『被相続人の子供』が〝健在〟か〝既に死亡しているか〟によってガラッと変わってくるのです。
さて、ここまでが、『相続が発生した際に、無条件で相続税が高くなってしまう2割加算の対象者』についての概要です。
では最後に、ここまでの話をもとに、
【相続が発生した際にあえて『2割加算』の対象者である相続人に、相続をさせた方が得をするケース】
について見ていきたいと思います。
③2割加算対象者が相続をした方が得をするケース
相続が発生した際にあえて『2割加算』の対象者に相続をさせた方が得をするケースというのは、祖父母の財産が高額で且つ相続人の人数が少ない場合です。
今回は下図のような三世代の家族をモデルケースに説明をしていきます。
この家庭のように、1世代目の人物が十分な資産を持っていて、尚且つ相続人の人数が1人しかいない場合、
1世代目の財産を順番に2世代目・3世代目と相続させていくよりも、
2世代目を飛ばして、1世代目の財産を3世代目に相続した方が、結果的にこの家族全体が支払う相続税は安くなります。
具体的に見ていきましょう。
まず前提として、相続税には『相次相続控除』というものがあります。
これは、
●『今回の被相続人』が、亡くなる10年以内に相続税を納めていた場合、
●『今回の相続人』が納める相続税を、段階的に控除できる規定です。
親子の年齢差を考えると、10年以内に次の世代が亡くなる事はそこまで多くないと思いますので、
今からお話しする例では、〝相続は全て10年以上間隔をおいて発生した(『相次相続控除』の対象外)〟と、仮定して話を進めますね。
パターン➀順番に相続した場合
では一世代目の財産を、順番に2世代目・3世代目と相続させていくパターンの相続税額を見てみましょう。
● 1世代目から2世代目の時にかかる相続税:1,220万
● 2世代目から3世代目の時にかかる相続税:854万円
となりますので、この家族全体で支払う相続税の合計額は2,074万円となります。
パターン➁ 2世代目を飛ばして相続(遺贈)した場合
では、祖父の遺言によって、2世代目を飛ばして孫に全財産をあげた場合の相続税額を見てみましょう。
課税対象額と通常の相続税額の計算:
1億円から基礎控除3,600万円を引き、そこから税率をかけて税額控除を引くと、通常の相続税額は1,220万になります
相続税の2割加算:
相続税額は1,220万に『2割加算』を行いますので、祖父の財産を孫が直接相続した場合には、1,464万円の相続税がかかるということになります。
各パターンの比較
二つのパターンを比較してみますと、
【パターン➀1世代目の財産を順番に2世代目・3世代目と相続】
家族全体で支払うことになる相続税額は2,074万円
【パターン➁1世代目の財産を3世代目が相続(遺贈)した場合】
相続税の『2割加算』は課されますが、支払う相続税額は1,464万円
つまり祖父の財産を遺言によって1世代飛ばしで相続させることで、この家族は610万円もの相続税を節税することができたということですね。
【孫を養子にしていた場合】
しかも相続税というのは、
● 財産を相続する相続人の人数が多ければ多いほど、
● 支払う相続税が大幅に下がりますので、
孫を養子として迎えていれば、今回のシュミレーションによりも更に大きな節税効果が見込めました。
この点についてはこちらの記事でより詳しく解説をしているので、興味がある方はご覧になってみて下さい。
【2世代目も財産が多い場合】
また今回のモデルケースでは、2世代目の相続人自身の財産を0でシュミレーションしましたが、
● 2世代目の方が既に3,000万円や5,000万円ほどの財産を所有している場合、
● 祖父から順番に相続をすると、孫にかかる相続税はより高額になります。
ですので、
「2世代目の相続人が、すでに金融資産や不動産を潤沢に持っている」
というご家庭の場合は、今回紹介したような一代飛ばしの相続を検討されてみても宜しいかと思います。
まとめ
では、今回の記事の内容を簡単にまとめていきましょう。
相続税というのは、〝亡くなった方の財産を誰が相続するか〟によって、無条件で高くなることがあり、
その対象となるのは下の図の赤枠の人達です。
亡くなった方の兄妹姉妹が相続財産をもらう場合:
「兄弟姉妹は第3順位の法定相続人なので、相続税の『2割加算』はされない」と思われがちなのですが、
亡くなった方の財産を兄弟姉妹の人たちが相続した場合は、相続税は無条件で2割加算されてしまいます。
孫が亡くなった方の相続財産をもらう場合:
孫が『2割加算』の対象になるのか・ならないのかというのは、
『孫の親にあたる被相続人の子供』が〝健在か・既に死亡しているか〟によってガラッと変わってきます。
【相続税の2割加算を承知した上で、あえて家族間の相続を一代飛ばしで節税を狙う】
という方法も紹介しましたが、
「節税目的のためだけに、まだまだ精神的にも未熟な孫世代に高額な財産を相続させる」
という方法は、お孫さんの将来に悪影響を与える可能性もあります。
ですので、将来の相続税の節税対策を行う際には、自己判断だけで行うのではなく、
● 元気なうちに家族でよく話し合い、
● できるだけ相続専門の税理士などにアドバイスを受けながら実行されることをお勧めします。