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【重要】配偶者の税額軽減を安易に使うと大損しますよ!

 
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秋山 清成
国税局・税務署で40年以上相続業務に従事して来た国税OB税理士です。元国税の経験を活かし、相続・贈与で悩む方々に少しでも有益なコンテンツを届けれられるよう、日々記事や動画を投稿中です。(Youtube登録者数:11万人)

相続税の申告では、配偶者の税額軽減という亡くなった方の財産を配偶者が相続した場合、最低でも1億6,000万円の財産までは相続税がかからないという、素晴らしく使い勝手の良い特例制度があります。

これは亡くなった方が財産を築くことができたのは、配偶者の方が長年一緒に頑張ってきたからという配偶者の方の寄与が認められたものなんですね。

この配偶者の税額軽減については、以前の記事でも制度の内容や利用する上での注意点について詳しく解説したのですが、先日から立て続けに2件、この配偶者の税額軽減の特例を使うことによって、何千万円もの損失を受けた方から相談を受けました。

どちらの内容も、一次相続において相続に不慣れな税理士が、この配偶者の税額軽減を安易に使い相続税の申告と納税を行った、というものなんですが、まさにこの配偶者税額軽減を安易に使ったことが、相談者さんに対して何千万円もの損失を与えた原因だったんですね。

この配偶者の税額軽減は、一度適用して相続税の申告書を税務署に提出してしまうと、撤回はできません。

特例を使ったことにより、将来的に何千万円もの損失が発生すると分かっても、申告書を提出する前の状態には戻せないんです。

ですので今回の記事では、皆さんにこの配偶者の税額軽減をきちんと正しく使っていただくために、配偶者の税額軽減という制度についておさらいをした上で、今回特例を安易に使ったことにより、損失を出してしまった相談者さんが、実際にどのような遺産分割を行ったのか、その内容についてお話していきたいと思います。

 

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記事を読みたい方は、このまま下に読み進めて下さい。

 

①配偶者の税額軽減について

まず本題に入る前に、配偶者の税額軽減について簡単に説明しますと、冒頭の繰り返しになりますが、配偶者の税額軽減とは、亡くなった方の財産を配偶者が相続した場合、その財産のうちの法定相続分か、1億6,000万円のいずれか多い金額まで相続税が非課税になるという特例制度です。

相続しても相続税がかからない

この法定相続分というのをざっくりと説明しますと、亡くなった方との関係によって誰がどれだけ、亡くなった方の財産を相続できる権利があるのかを民法で定めたものでして、例えば夫婦と子供2人という家族構成で、旦那さんが亡くなった場合、奥さんは旦那さんの財産の1/2を相続できる、子供は1/2の半分でそれぞれ1/4ずつ相続できる、といった具合になります。

配偶者1/2、子ども1/4ずつの法定相続分

具体的な数字を使って説明しますと、この家族の場合亡くなった夫の財産は、4億円ありますので、妻は亡くなった夫の財産を自身の法定相続分である2億円まで相続しても、相続税はかかりません。

2億円まで相続しても相続税はかからない

また別の家族の場合、亡くなった夫の財産は2億円ですので、妻の法定相続分は1/2で1億円になりますが、1億6,000万円の方が多いですから、2億円のうち妻が1億6,000万円を相続しても、相続税はかかりません。

夫の財産が2億円の家族の場合

つまり夫の財産が1億6,000万円以下の家庭でしたら、妻が夫の財産を全て相続すれば、相続税は1円もかからないということになります。

ただしこの特例への恩恵を受けるためには、相続人同士での遺産分割協議書の作成と相続税の申告が必要になります。

そして遺産分割協議書は契約書なので、冒頭でもお話したように、一度提出するとよっぽどの理由がない限り、撤回はできません。

このあたりの詳しいお話は、この記事にて解説していますので、是非ご覧になってみてください。

「【配偶者の税額軽減】最低でも1億6000万円が非課税に!?特例のメリットと利用上の〝注意点〟を解説!」

さてここまで配偶者の税額軽減の概要をお話してきましたが、相続税の納税額を少しでも抑える上で、この特例制度がいかにお得なものであるかを理解していただけたと思います。

「最低でも1億6,000万までの財産を非課税で相続できる」こう聞いたら「それならこの制度の限度額いっぱいまで、非課税枠を使わないと損じゃない?」とこういう気持ちになりますよね。

実際に相続に不慣れな税理士の場合、深く考えずにこの特例を使って相続税0円として申告をする人もいますし、相続人の方もこの特例を使うことにより、今回の相続では相続税が0円、もしくは少なくて済みますから、相続税が安く済んだと喜んで相続税の申告書に印鑑を押すんですよね。

ですがこの考え方がとても危険なんです。

冒頭でもお話したように、私は先週立て続けに2件、相続に不慣れな税理士がこの配偶者の税額軽減を安易に使ってしまったばっかりに、大損をしてしまったという方から相談を受けました。

ですのでここからは、その内の1人の方の相談内容について税理士の言うとおりに配偶者の税額軽減を使うことで、なぜ相談者の方は損をしてしまったのかについて、皆さんと一緒に見ていきたいと思います。

 

②特例を使ったことにより損をした遺産分割の内容

相談者の方を仮名で田中さんとお呼びしてお話を進めていきます。

元々は私が田中さんから受けていた相談というのは、配偶者の税額軽減や財産の分け方に関する内容ではなく、一昨年お母さんを亡くされ、お母さんの相続税の申告と納税が終わった後で出てきた、田中さん名義の名義預金の件について相談を受けていました。

しかし田中さんからヒアリングを行う中で、名義預金に関することとは別に気になる点があり、詳しくお話を聞いたところ、なんと田中さんはある金融機関から紹介された相続に詳しくない税理士の提案によって、1,000万円以上の損失を受けていることが発覚したんです。

まず田中さんの家族構成としては、お父さん・お母さん・息子である相談者の田中さんの3人家族で、一昨年に9,600万円の財産を持っていたお母さんが亡くなられ、お母さんの財産はお父さんと田中さんで法定相続分通りに相続を行いました。

田中さんは355万円の相続税を納めた

お父さんは配偶者の税額軽減を使い相続税が0円、田中さんは355万円の相続税を納めたそうです。

私が気になったのはお父さんはご自身で1億円もの財産を持っているのに、なぜお母さんの財産を相続して、ご自身の財産を増やすようなことをしたんだろう?ということです。

というのも田中さんが何かよほど大きな病気や事故に遭わない限り、お父さんの方が先になくなりますよね。

お父さんの現時点の財産は、ご自身で築かれた1億円と、お母さんから相続した4,800万円の合計1億4,800万円です。

田中さんが支払う相続税は2,780万円

相続人は息子である田中さん一人しかいませんから、将来お父さんが亡くなった時に田中さんが支払う相続税は2,780万円にもなります。

田中さんがお母さんの時に支払った355万円と、お父さんの時に支払うことになる2,780万円を合わせれば、田中さんは両親の相続で3,135万円もの相続税を支払うことになってしまうんです。

両親の相続で3,135万円もの相続税を支払う田中さん

後ほど解説しますが、田中さんの場合お母さんが亡くなった一次相続の時に、将来お父さんが亡くなった時のことまで考えて、遺産分割を行っていれば、ご両親の相続で支払う相続税は1,930万円に抑えることが出来ていました。

先ほどの納税額と比べた差額は、なんと1,205万円です。

しかし相続においては支払う税金の額を減らすことも大事ですが、相続人の方の気持ちも尊重して財産を分ける必要があります。

ですから私は田中さんに「なぜお父さんがお母さんの財産を相続することにしたんですか?」と質問をしたところ、なんと「相続税の申告を依頼した税理士の提案だった」とおっしゃいました。

お母さんの相続税の申告と納税は既に完了していますし、今更遺産分割協議の内容を変えたいと思ってもよっぽどのことがない限り税務署は認めません。

つまり田中さんはその税理士の提案によって、将来的に1,205万円という金額の損失を受けることが確定してしまっているんです。

では田中さんやお父さんは一次相続においてどのように遺産分割をしていれば相続税を抑えることができたんでしょうか?

一番相続税が抑えられる分け方としましては、お母さんが亡くなった時に田中さんが9,600万円全てを相続することですね。

配偶者の税額軽減が使えないので、田中さんはお母さんが亡くなった時の一次相続で710万円の相続税を支払うことになりますが、将来お父さんが亡くなった時、つまり二次相続で支払う相続税は1,220万円ですので、一次相続と二次相続の合計は1,930万にすることができていました。

一次相続と二次相続の合計は1,930万にすることができた

このように家族構成、両親、それぞれの財産状況によっては、一次相続において安易に配偶者の税額軽減を使ってしまうと、将来子供が支払う相続税の額がとんでもなく高額になりかねません。

本当に相続専門の税理士であれば、依頼主に損失を与えるような提案は絶対に行わないのですが、どうやら金融機関から紹介された税理士は、相続税のことをわかっていない税理士だったようです。

正直これは明らかにこの税理士のせいで起こった損失ですから、損害賠償請求問題なのですが、田中さんは私も未熟だったからと請求をしないとのことでした。

このように配偶者の税額軽減を使ったことで、損をすることもあるんですが、家族構成や両親それぞれの財産内容によっては、配偶者の税額軽減を使った方が得をする家庭というのももちろん存在します。

相続が発生した場合、一次相続でどのように遺産分割をすれば、二次相続も含めて最も節税できるのか?というのは100家族おられましたら、100通りの答えがあるんですね。

100家族いたら100通りの答えがある

ですので次回の記事では、この下の図の家族をモデルケースとして、お父さんが亡くなった一次相続の時にお母さんが財産を全額相続した場合と、お母さんが自分の法定相続分のみの財産を相続した場合、またお母さんは一切財産を相続せず、長男長女だけが財産を相続した場合、それぞれの場合で一次相続で納める相続税がいくらになるのか、また次にお母さんが亡くなり、二次相続が発生した場合の相続税はいくらになるのか、一次相続と二次相続で納める合計額を見て、どのパターンが一番相続税を安くできるのか?という部分についてわかりやすく解説していきますので、是非次回の記事も見ていただければと思います。

一次と二次で納める合計額を見てどのパターンが相続税を安くできるのか?

では今回の記事のまとめです。

 

まとめ

相続においては配偶者の税額軽減という相続税を大きく減らせるお得な特例制度があるんですが、この制度は二次相続のことまでをしっかりと考えてから利用しないと、本来支払わなくても良い高額な税金を納めることになります。

具体的には家族構成や夫婦それぞれの財産額、財産の種類によって配偶者の税額軽減を使うことで、得をするのか損をするのかというのはガラッと変わってきます。

家族構成や財産によって得をするのか損をするのかが変わる

例えば今回の記事で紹介した田中さんの家族の場合でしたら、お母さんが亡くなった一次相続の時に、田中さんが全て相続をしていれば、次にお父さんが亡くなる二次相続が発生しても両親の相続で支払う相続税は1,930万円におさまっていたんですね。

ところが田中さんの場合、お母さんが亡くなった一次相続において、法定相続分で相続をしてしまいました。

この時一次相続において、お父さんが支払う相続税は0円で済んだのですが、次にお父さんがなくなる二次相続が発生した時の相続税が大幅に跳ね上がることになりました。

一次相続の相続税を抑えようと、田中さんが依頼した税理士が配偶者の税額軽減を安易に使ってしまったことで、田中さんは1,000万円以上の損失を受けてしまったんですね。

1,000万円以上の損失を受けた田中さん

相続に不慣れな税理士ですと、とりあえず目の前の相続税を0円にする為に「旦那さんの財産は、すべて奥さんが相続しましょう。そうすれば相続税が0円です。」と言ったりしますが、これまで記事内で説明してきましたように、相続が発生した時は、家族構成、財産状況、財産の種類をよく加味し、今目の前で起こっている相続だけではなく、次に起こる二次相続のことも考えて、遺産分割を行わないと大損をすることがあるんです。

ですので皆さん、もし皆さんが相続税の申告を依頼した税理士が二次相続までをしっかりと見据えた遺産分割の方法を提示しない場合には、その方は相続専門の税理士でない可能性が高いですから、手遅れになる前に相続専門の税理士を改めて探すようにしてください。

一旦相続税の申告書を税務署に提出してしまえば、遺産分割のやり直しは不可能に近いですからね。

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秋山 清成
国税局・税務署で40年以上相続業務に従事して来た国税OB税理士です。元国税の経験を活かし、相続・贈与で悩む方々に少しでも有益なコンテンツを届けれられるよう、日々記事や動画を投稿中です。(Youtube登録者数:11万人)